リドリー・スコット監督最新作。
ベテランから若手スターまで魅力あるキャスティングを擁しているが、
この作品でスコット監督は、登場人物への感情移入を最小限に抑えた演出に
徹している。
作戦の開始から、予想外の戦闘ヘリ墜落、暴徒と化した民衆の容赦ない銃撃、
市街戦、追いつめられていく米兵士たち、救出作戦、安全地区への撤退…。
時間を追って作戦行動にあたる兵士たちを忠実に描写し、「戦闘シーン」に
焦点があたるように配慮されている。
ゆえに作品上映時間もの8割以上は戦闘シーン。
映画的な盛り上がりもなければ、あっと驚くどんでん返しみたいなものもない。
しかしスコット監督の意図は、あえてドラマ的要素を排除して「米兵戦死者、
19名、ソマリア民兵1000名以上」という既成事実をどちらの方に付くこともなく
リアルに再現することにより、「戦闘行為」そのものを描ききることにあった。
そして、その意図は十分に成功を収めていると思う。
しかし、ひとつだけ気になったのは撃墜されたヘリのパイロットが人質に
なってからのシーン…これから民兵の指揮官と米軍の駆け引きがあるのかと
当然のように感じるが、結局は何にもなし…。これでは観客からは編集段階で
無理矢理カットしたように受けとられてしまう。
「グラディエーター」でもそうだったが、ラストシーン近くでの編集の甘さみたい
なものを感じた。
出演者で特に印象に残ったのは、車輌部隊の指揮をとるダニー・マクナイト
中佐役のトム・サイズモア。
「プライベート・ライアン」でもトム・ハンクス演じるミラー大尉の右腕である
小隊の副官を演じて強い印象を残したが、今回も激しい市街戦の最中、
冷静さを失う兵士たちの中にあって常に堂々としていて、淡々と闘う姿が
クールでかっこよかった。まさに百戦錬磨の指揮官。
「プライベート・ライアン」ではいったん死んだけれど、再びよみがえって
戦場に戻ってきたかのようだった。
あるテレビ番組の中で映画監督の井筒和幸氏は、この作品に対して
「マイナス5ポイントじゃ~!」とえらく怒っていた。映画の中で「反戦」の
メッセージや米兵士たちが武力介入し、現地人を殺害していくことへの憤り、
アメリカ政府への批判が込められていなかったことなどが、井筒監督の「怒り」
の理由だったようだ。僕はリドリー・スコットが好きなので、贔屓目にみている
からかもしれないが、このイギリス人監督は作品にあまり「説教臭い」
メッセージを込めたり、作品の社会的主題を正面から取り入れるるようなこと
を本来好まない(ように見える)。どちらかといえば、生粋の映像作家であって、
オリバー・ストーンのように「社会的テーマ」と「二元論」をはっきり備えてから
作品制作に臨むタイプではないのだ。
この作品も「アメリカのソマリアへの武力介入」が作品の主題ではない。
例えば、スタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」も「ベトナム」
は主題ではなく、単なるモチーフであり、キューブリックが脚本を制作するに
あたってのきっかけにすぎなかった。そこが「プラトーン」などとは根本的に違う。
彼の作品テーマは生涯を通して「狂気」であったからだ。
リドリー・スコットも制作スタイルはどちらかといえばキューブリックに近い。
繰り返すが、主題はあくまでも「ソマリア」ではなく「戦闘行為」なのである。
メッセージ・メーカーとしての社会的責任を問われるとそれまでだが、
僕自身は今回もリドリー・スコットらしい仕事を十分に楽しめたし、
観客が少なかっので館内が少し肌寒かった以外、井筒監督のように怒りで
震えるようなこともなく、作品の余韻を残しつつ映画館をあとにすることができた。