鑑真和上は12年間に渡り、幾度の苦難、6度の航海を乗り越えて来日…。
この行動力や不屈の精神力は当然ながらすごいと思うが、
彼を口説き落として呼び寄せた当時の日本人もすごいと思う。
この時代、乱れた国を仏教の力でまとめようと必死だったのではないか。
例えは全く不適切だが、98年オフに瀕死の阪神タイガースのフロントが、
三顧の礼を持って野村克也氏に監督就任の要請をした時のように差し迫った
状況であったに違いない。
まさしく国家の存亡をかけて鑑真和上その人に賭けたのであろう。
「ロマン」や「情熱」といった言葉が死語になりつつある21世紀の日本では実感
しにくいが、8世紀の日本では一人の高僧を迎え入れ、その教えによって国家の
コンセプトを構築する「仏教による国家の平定」は、「IT革命」以上に当時の切実
な国家戦略であったに違いない。
信仰心のない僕などにも時空を越えてこんなにリアルに迫ってくる「ロマン」は、
大戦とバブルを経て、明確な「国のアイデンティティ」を失ったまま、
さ迷い続けている日本人に対しての何か重要なメッセージに思えてならない。
「儲かる」「楽しい」「便利」…今の僕たちの社会が美徳と考えている言葉などとは
無縁の心境で鑑真和上は喜んで海を渡ったのではないだろうか…。