この「トゥールズ・ロートレック展」を最後に東武美術館が閉館した。
昨年のセゾンミュージアムに続いて、
昨今の百貨店経営の厳しさが窺えるような現実である。
池袋はモダンアート&デザインの西武に対して、
古典絵画&印象派の東武みたいなイメージでバランスがとれていて
楽しかったのだが、池袋モンパルナスの灯が消えてしまった感じがする…。
ロートレックはデッサンの達人であることは誰もが認めることだが、
圧巻は晩年アルコール中毒による衰弱で入院していた時、
想像だけで描いた馬やサーカスのデッサンだ。
日本画家がスケッチを繰り返すことにより、花や鳥を見なくてもその特徴を
とらえることのできる技術を身に付けていくように、ロートレックにとって「馬」という
モチーフは彼の創作上の原点であったように思う。
それは、息子と一緒に狩猟に出かけることが唯一の楽しみだった父への複雑な
思いとコンプレックスが終生彼の心の片隅に居座り続けたと同時に、
「馬」で培われたデッサン力は後の彼のライフワークになる「踊り子」や「娼婦」と
いったモチーフで昇華される。
コンプレックスという「負」の産物が、時に創作におけるものすごいパワーの源に
なることをあらためて実感した展覧会であった。