六本木ヒルズ森タワーの最上階52階、53階にオープンした森美術館のオープニン
グを飾る展覧会。人間にとっての永遠のテーマともいえる「幸福」を、古代から現代
にいたる東西のアートを通して探る…というのが本展のねらいということだ。
「幸福」のキーワードを「アルカディア」、「ニルヴァーナ」、「デザイア」、「ハーモニ
ー」という4つのセクションに分類して古典から中世、近代、現代そして西洋美術、
東洋美術、絵画、彫刻、映像などという垣根を越えて展示してある。
まず、エントランスに巨大な森村泰昌の作品が据えられている。そして最初は、古
い世界地図に始まり、セザンヌやゴーガン、モネがあると思えば、ルネ・クレールの
短編映画、ギルバート&ジョージやヨゼフ・ボイスのオブジェ。阿弥陀如来像や観
音菩薩像があるかと思えば、ジェフ・クーンズに村上隆などのネオポップアート。
勝川春草や葛飾北斎の春画があるかと思えば、荒木経惟の写真に草間弥生。
狩野正信や伊藤若冲の屏風絵があるかと思えば、オノ・ヨーコのジョン・レノンを
撮った作品に奈良美智まで…。
実にバラエティに富んでいるというかごった煮の世界、なんでもありである。
「アートに表現された幸福のかたち」というコンセプトはある程度理解できたが、
「そうかなあ…」とか「ちょっと無理があるかな」と感じた点もあった。
逆に「アルカディア」、「ニルヴァーナ」、「デザイア」、までは即物的というか、
やや短絡的、「ハーモニー」に至っては、なぜ最後がこれなのかわからなかった。
ともすれば消化不良を起こしそうな作品群の集め方だが、多少の違和感を逆に
楽しみながらスムーズに鑑賞することができた。
そしてこの美術館、作品数の多さと展示空間の巨大さには圧倒された。
でも疲れたら、大東京を一望できるカフェで一服できるし、同じ入場券で展望室も
見学できる。
六本木ヒルズというロケーションから、美術鑑賞以外の目的で来た観客が気軽に
楽しめる環境になっているのも魅力だ。平日は夜10時まで、週末は12時まで開い
ているというのは非常に利用しやすい。ミュージアムショップも充実。
アミューズメント要素と付加価値の高い美術館として満点をつけたいが、あえて
苦言を言えば、できればクロークかコインロッカーを設置してほしい。
どこの美術館でもあるものだから…。
この大空間を生かす企画展は毎回大変だとは思うが、「アートの楽しみ」を新しい
角度で試みることに挑戦した美術館の誕生だと感じた。
今後の活動に期待したい。